愛犬の歯石がひどい場合は「歯石取り(歯石除去)」を検討しましょう。 歯石の放置は、深刻な病気につながるからです。 犬の歯石を取る方法は、大きく2つあります。 ①動物病院で「歯石除去(スケーリング)」を受ける ②自宅で歯石取りグッズを使う 基本的には、確実に歯石を除去できる動物病院での「歯石除去」が一般的です。 ただ、全身麻酔が必要となり、費用も数万円と決して安くありません。 そこで、最近は無麻酔での歯石除去を売りにしている動物病院が増えています。 全身麻酔のリスクもなく、犬にやさしい、安全な治療というイメージのある無麻酔治療。 しかし、本当にそうなのでしょうか? 当記事では、愛犬を守るため、そして将来後悔がないよう、飼い主さんが事前に知っておきたい「犬の歯石取りの知識」を総まとめしています。 ▼この記事を見るとわかること ・「歯石」とは?歯垢との違いは? ・犬の歯石を放置するとどうなる? ・画像で愛犬の歯石レベル(軽度~重度)をチェック ・動物病院の「歯石除去(スケーリング)」とは? ・自宅で「歯石取り」はできる? ・「無麻酔の歯石除去」は本当に安全で犬にやさしい治療? 多くの人が見落としがちな「無麻酔で歯石除去を行うリスク」にも触れているので、ぜひ最後までご覧のうえ、どこで歯石取りを行うかご検討ください。
「歯石」とは?歯垢との違い
そもそも「歯石」とは何か、まず理解しておきましょう。 「歯石」とは、歯垢が唾液の成分と結びついて石灰化したものです。 石のように硬くなり、一度できると歯ブラシでは簡単に取れません。 そして「歯垢」とは、食べかすをエサに増殖する細菌の集まりです。 「プラーク」とも呼ばれています。 白くネバネバとしており、歯の表面や歯と歯の隙間に付着することが多いです。 つまり、食べかすをエサに細菌が集まって生まれたのが「歯垢」。 その歯垢が、時間とともに硬質化したものが「歯石」となります。 よく歯石と歯垢を間違え、歯垢に効果のあるデンタルケアアイテムを購入されている方がいるため注意しましょう。
犬の歯石を放置するとどうなる?
犬の歯石を放置することで、まず考えられるのが「歯周病」です。 「なあんだ、歯周病か。」と思ったそこのあなた。 歯周病がいかに恐ろしい病気か、ここではしっかりお伝えしていきます。 歯周病とは、歯垢に含まれる細菌(歯周病菌)によって炎症が引き起こされる病気で「歯肉炎」と「歯周炎」の総称です。 ▼歯肉炎と歯周炎の違い
歯肉炎 | 歯茎の赤みや腫れ、出血といった「歯肉の範囲」にとどまる軽度の炎症。 |
歯周炎 (歯槽膿漏) |
歯肉炎が進行し、歯の根元を支えるクッション膜や歯が埋まっている骨を溶かすなど「歯肉よりも内部」にまでおよんでいる重度の炎症。 |
そして、歯周病が進行すると愛犬に以下のような症状が出てきます。
▼犬における重度の歯周病で発生しやすい症状
・口臭がひどくなる(ドブ臭い・生ごみのような腐敗臭がする)
・炎症によって歯が痛む(食欲低下の原因)
・歯の根元に膿が溜まって頬が腫れる(さらに進行すると頬に穴が空く)
・顎の骨が溶ける(少しの衝撃で重度の骨折になる)
・上の歯の根元と鼻が貫通する(慢性鼻炎を引き起こす)
このとおり、歯周病は歯や口腔内の問題にとどまらないのです。
さらに昨今は、歯周病菌が血液を経由して体内に入り込み、肺炎や心臓病、腎臓病などの内臓にも悪い影響を及ぼすことが指摘されています。
そんな歯周病を悪化させる要因のひとつが「歯石」です。
歯石の表面はザラザラしており、新たな歯垢が付きやすい状態。
細菌をさらに増殖させやすい環境を作ってしまうといえます。
愛犬の歯石を放置することは、この先のQOL(生活の質)を大きく下げる行為です。
歯石が気になった際は、速やかに歯石取りを行ってあげましょう。
画像で愛犬の「歯石の状態(軽度~重度)」をチェック
「うちの子の歯石ってひどいの?すぐに歯石除去が必要なレベル?」 愛犬の歯石が、軽度なのか重度なのか。 気になっている飼い主さんは多いと思います。 今回は、あくまで参考としてですが、海外の論文で使われている「犬の歯周病レベル評価シート」で愛犬の歯石レベルをチェックしてみましょう。 ▼犬の歯周病レベル評価シート
画像:PubMed ”A cross-sectional study to estimate prevalence of periodontal disease in a population of dogs (Canis familiaris) in commercial breeding facilities in Indiana and Illinois”
一番上の写真が、歯垢も歯石もない「健康な歯の状態(歯周病レベル0)」です。
2番目の画像から順に詳細を見ていきましょう。
▼犬の歯周病レベル評価シートの詳細
歯周病レベル(進行度) | 歯石レベル | 歯肉の状態(その他) | |
レベル1 (2番目の画像) |
早期の歯周病 (歯肉炎) |
軽度の歯垢 | 軽度の赤み |
レベル2 (3番目の画像) |
早期の歯周病 (軽度の歯周炎) |
・軽度の歯石 ・歯肉溝(歯と歯肉の間)に歯垢 |
・赤み ・腫れ |
レベル3 (4番目の画像) |
中期の歯周病 (中等度の歯周炎) |
中程度~重度の歯石 (歯肉溝にも歯石) |
・赤み ・腫れ ・出血 ・歯茎のやせ ・後退(歯のぐらつき・歯が抜ける) |
レベル4 (5番目の画像) |
末期の歯周病 (重度の歯周炎) |
重度の歯石 (歯肉溝に大量の歯石) |
・重度の赤み ・炎症 ・出血 ・歯周ポケットの生成 ・膿の発生(歯のぐらつき・歯が抜ける) |
参考:[文献:犬] 繁殖施設の犬も家庭の犬も歯周病の割合は変わらないみたい(PMID: 29346448)
ひどい歯石はすぐに動物病院へ!
3番目の画像(歯周病レベル2)以降は、すぐに動物病院で歯石除去を検討してください。
特に歯周病レベル3や4は「重度の歯石」といえます。
歯石を取るだけでなく、歯周病の状態によっては、別の処置(抜歯や炎症の処置)も必要になるかもしれません。
理想は、2番目の画像(歯周病レベル1)の段階で歯石除去をすることです。
白かった歯が黄色く、ぼんやりくすみ、ところどころシミのように取れない歯石の沈着が出てきたら歯石除去を考えましょう。
軽度の歯石でも注意が必要
見た目が軽度の歯石でも、歯石除去が必要となるケースはあります。
参考:ある犬の事例(リンク先「【症例2】」の項)をご紹介しましょう。
その子は、5歳6か月のミックス犬です。
月に一回ほど動物病院で「無麻酔」の歯石除去を徹底して行っていました。
そのおかげか、見た目の歯垢・歯石レベルは、軽度~中程度との評価を受けます。
しかし、レントゲン検査を行ったところ、深い歯周ポケットが多く見つかりました。
そこから歯周病が進行しており、最終的には合計15本もの歯を抜くことになったのです。
詳しくは後ほどお話ししますが、無麻酔による歯石除去も、自宅での歯石取りも、基本的には目に見える範囲の歯石(歯垢)しか取ることができません。
この事例は、目に見えない範囲に細菌が残っており、歯周病が進行した結果といえます。
見た目のきれいさ(歯石レベル)と歯周病の進行度はイコールではないのです。
歯石レベルが軽度でも安心せず、一度は動物病院での歯科検診と全身麻酔による歯石除去を検討しましょう。
動物病院の「歯石除去(スケーリング)」とは
犬の歯石取りは動物病院で行えます。 いわゆる「歯石除去」や「スケーリング処置」と呼ばれるものです。 ここでは動物病院の歯石除去について具体的な治療の流れや費用等について解説します。 ・治療内容と流れは? ・かかる費用の目安は? ・高齢犬や子犬も歯石取りは可能? ・ペット保険は適用される?
治療内容と流れは?
動物病院で行う「歯石除去」の一般的な流れを見てみましょう。
① | 術前検査 | 全身麻酔に耐えられるかといった術前の精密検査(血液検査、レントゲン検査、超音波検査、心電図検査 等)。 |
② | 麻酔などの準備 | 全身麻酔の実施とそのための準備。 |
③ | その他 (歯周病の進行度によって実施) | 超音波スケーラー等を使った歯石の除去。 |
④ | ポリッシング | 歯の表面を研磨して凹凸をなくし、歯垢を付きにくくする大切な処置。 |
⑤ | その他 (歯周病の進行度によって実施) |
・「プロービング」歯周ポケットの深さを測る検査 ・「ルートプレーニング」歯周ポケット内の歯垢・歯石の除去 ・「抜歯」歯周病が進行し、痛みを伴ってぐらついて歯を抜く処置 ・「キュレッタージ」歯周病菌に侵された病的な歯肉部位を除去する処置 |
動物病院の歯石除去は「歯周病の予防や治療」のために行う処置のひとつです。
ただ歯石を取って、歯を美しくクリーニングすればよいというわけではありません。
そのため、上記のとおり、さまざまな検査や治療処置が「歯石除去」のなかには含まれています。
かかる費用の目安は?
動物病院の歯石除去にかかる費用は、以下によって金額が大きく変わります。
・愛犬の健康状態や体重(全身麻酔の種類や量)
・術前検査の内容(検査の数が多いほど金額は上がる)
・歯石レベル(重度な歯石は金額が上がる)
・歯周病の進行度(抜歯などほかの治療の必要性)
あえて歯石除去の費用相場を出すなら、超小型犬が「4万円前後」。
大型犬や口腔内に問題のある犬は「6万円~」。
もちろん、動物病院によって料金体系は異なるため、まずはご相談されることをおすすめします。
高齢犬や子犬も歯石取りは可能?
高齢犬でも、術前検査の結果次第で歯石除去は可能です。
一般的に10歳以上の高齢犬は、全身麻酔のリスクが高いとされています。
だからといって、すべての高齢犬が歯石除去を受けられないわけではありません。
実際、全身麻酔のリスクよりも歯石除去のメリットの方が上回る(この先の犬生が良いものとなる)と判断した場合は、高齢犬でも歯石除去を提案する獣医師さんは多いです。
ある17歳の高齢犬の話を見てみましょう。
歯周病細菌によって慢性膀胱炎や下痢、食欲不振に長年苦しんでいたその子は、歯石除去によってQOLが上がり、その後も楽しい犬生を送っているそうです。
そして、子犬も一般的に「3か月未満の子」は全身麻酔のリスクが高いとされています。
ただ、子犬の歯は乳歯から永久歯に生え変わるため、歯石除去をするタイミングはかかりつけの動物病院でご相談されるのが一番でしょう。
高齢犬の全身麻酔はこわい?
「高齢犬は全身麻酔のリスクが高い。」
「うちの子は高齢だから全身麻酔に耐えられないだろう。」
よくこのように考える飼い主さんは多いですが、上記には少し訂正が必要です。
「高齢犬だから」全身麻酔ができないのではありません。
多くの高齢犬が持つ「身体要素」が全身麻酔のリスクを上げるから、避けられる傾向にあるのです。
全身麻酔のリスクは、たしかに年齢的な要因も考えられます。
高齢になると各部の身体機能が衰え、さらに免疫力も落ち、麻酔の副作用などの影響を受けやすくなるからです。
ただ、麻酔リスクは年齢以上に犬種(体格)と以下の要素も関わるとされています。
・持病の有無(隠れた病気の存在)
・その時の体調
海外の論文によると、健康な犬と体調のすぐれない犬の麻酔の死亡率は「0.05%(=2000頭に1頭)」から「1.33%(=75頭に1頭)」に跳ね上がるそうです。
つまり、これらの要素に気を付けることで、高齢犬でも全身麻酔のリスクを大幅に下げることができるといえます。
そこで重要となるのが、以下の対応です。
・徹底した術前検査(隠れた病気や体調不良など愛犬の健康状態を確実に把握する)
・麻酔下での麻酔管理の徹底
もちろん、それでも全身麻酔のリスクはゼロにはなりません。
ただ、麻酔の安全性が年々高まっていること。
そして、全身麻酔のリスクを下げる対応をしっかり取ることで、高齢犬でも全身麻酔のリスクを最小限に抑えられるようになっています。
高齢犬だからといって、全身麻酔を怖がり過ぎる必要やあきらめる必要はないのです。
いずれにせよ、まずは信頼できる動物病院や歯石除去について最善の方法を探してくれる親身な獣医師さんに相談されることをおすすめします。
そのためには、セカンドオピニオンも適宜検討しましょう。
“全身麻酔がご不安な方も、一度ご相談ください。年齢・全身状態を考慮して判断いたします。ただ、どれだけ高齢であっても、歯周病を放置するほうが危険性は高いと考えられるため、麻酔前検査で全身的な精密検査を行い、問題点がなければ実施することを検討いたします。もし麻酔が厳しいと判断された場合でも、できる範囲での口腔ケアをご提案いたします。”
引用:南柏たなか動物病院「予防歯科について」
このように、たとえ全身麻酔ができなくても、信頼のできる獣医師であれば悩みや不安に寄り添って、できる範囲の処置や歯石除去につながる代替案を提示してくれるはずです。
あらためて、かかりつけの動物病院が全身麻酔のリスクに対してどのようなスタンスか、どのような取り組みで最善を尽くしているか、尋ねてみることをおすすめします。
また、以下の全身麻酔に関する獣医師さんの見解もご覧いただくことで、より納得感を持って全身麻酔を伴う歯石除去を検討できるのではないでしょうか。
【犬の全身麻酔に対する見解の参考サイト】
・たかつきユア動物病院「【獣医師監修】高齢動物の歯石除去は可能。リスク評価について解説!」
ペット保険は適用される?
歯石除去が、ペット保険の補償対象となるかは加入している保険の内容で変わります。
ただ、歯周病の治療としての歯石除去は補償の対象になることが多いようです。
歯周病の治療ではなく、予防としての歯石除去は対象とならない点にご注意ください。
(補足)歯石除去を「獣医師以外」が行うのは違法!
獣医師さん以外が歯石除去によって利益を得るのは違法です。
“問3 歯石除去に資格が必要ですか?
引用:農林水産省「小動物獣医療等に関するよくある質問」
飼育動物の診療の業務は、獣医師でなければできません。スケーラーを用いる歯石除去は、獣医師の獣医学的判断及び技術をもって行う診療行為です。歯石が気になる場合は、獣医師にご相談ください。”
つまり、ペットサロンのトリマーやドッグトレーナーといった方がスケーラー等を用いた歯石除去を行って金銭を得るのは法律違反となります。
実際、ドッグカフェの経営者が歯石除去で利益を得て、書類送検された事例があります。
ちなみに、人間の歯科医や歯科衛生士が動物の歯石除去を行っても同様に違法です。
また、人間の場合は歯科医師や歯科衛生士といった歯科の国家資格がありますが、犬(動物)には歯科分野の国家資格がありません。
そのため、歯石除去を行えるのは唯一「獣医師のみ」といえます。
そういった意味では、安心して愛犬を任せられるところか確認するためにも、歯石除去を行う人は本当に獣医師さんか、動物看護師や併設しているサロンのトリマーの方でないか尋ねる必要があるかもしれません。
結局どこで愛犬の歯石取り(歯石除去)を受けるべき?
基本的には動物病院です。
時折、それ以外のペットサロン等で歯石除去サービスを行う旨の記載がありますが、これは先述のとおり違法行為のためご注意ください。
また歯石除去は医療行為であり、感染対策にも気を配る必要があります。
歯石除去においておすすめの動物病院の特徴を見てみましょう。
・日頃から愛犬のことを熟知している獣医師がいる(=かかりつけの動物病院)
・歯科治療を得意とする獣医師がいる(歯科治療に強い動物病院)
・「日本小動物歯科研究会」等の歯に関する団体に所属している
・麻酔に関する知識が豊富な獣医師がいる
・術前検査の内容が充実している(その結果を説明してくれる)
・愛犬の今の状態や歯石除去について詳細に説明してくれる
・歯科専用のレントゲン機材など「歯に関する設備」が整っている
・(高齢犬の子の場合)高齢犬の歯石除去の実績が多い
もちろん、これらすべてを満たす動物病院を探すのは難しいです。
あくまで参考程度にご覧ください。
自宅で「歯石取り」はできる?
「自宅で歯石は取れないの?」 「自分で歯石を取るのはダメ?」 このように考える飼い主さんは多いと思います。 結論からお伝えすると、自宅でも歯石が取れないわけではありません。 実際、さまざまな歯石取りグッズが市販されています。 ただ、全身麻酔が難しい子を除いて、自宅での歯石取りだけに頼るのはおすすめしません。 先ほど説明した、動物病院における歯石除去の流れを思い出してください。 歯石を取るだけではなかったと思います。 つまり、歯周病の予防と治療という意味では、自宅での歯石取りだけでは不十分です。 奥歯や歯の裏、歯肉溝まで愛犬の歯石を完ぺきに取るには、全身麻酔下での歯石除去でなければ難しいでしょう。 また、歯石取りグッズには、それぞれリスクと使い方における注意点があります。 そのため、自宅での歯石取りとは、あくまで動物病院での歯石除去と併用した歯石予防の範囲、もしくは全身麻酔が受けられない子の応急措置だとお考えください。 ここからは、自宅で歯石を取る方法と歯石取りグッズの使い方・注意点を解説します。 ・ハンドスケーラー ・歯石用の歯磨き粉・歯磨きジェル ・歯磨きガム ・ジャーキーや骨など硬めのおやつ なお、重度の歯周病で炎症のある子は、自宅での歯石取りの方法はどれも痛みや恐怖を伴うものばかりです。 個人の判断では始めず、必ず獣医師さんとご相談のうえで行いましょう。
ハンドスケーラー
代表的な歯石取りの方法といえば「スケーラー」です。
先端が鋭く尖っている専の用器具で歯石を取ります。
画像:あんなか動物病院「歯石取りについての真面目な話」
スケーラーは、動物病院でも採用されている方法です。
ただ、動物病院では犬への負担が少ない、超音波の振動によって歯石を粉砕する「超音波スケーラー」が主に使われます。
超音波スケーラーは力加減や刃の角度、操作時間など取り扱いに技術が必要です。
その一方で、広い範囲の歯石を効率的に取ることができます。
対して、手動でガリガリと歯石を削り取るのが「ハンドスケーラー」です。
一般的に市販されているのは、こちらのタイプでしょう。
なお、最近は一般の方向けに超音波スケーラーも市販されているようですが、こちらは厳密にいうと動物病院で使っているものと同じではありません。
動物病院で使う超音波スケーラーは、微細な振動によって熱が発生するため、それを冷ます冷却水が出る仕組みとなっています。
一方で、市販の超音波スケーラーは冷却水が出ません。
つまり、超音波レベルではない振動のスケーラーと考えられます。
自宅の歯石取りでハンドスケーラーを使う際のリスクと注意点を見てみましょう。
・歯の表面が傷ついたままになる(さらに歯垢が付きやすくなる)
・精神的ストレスが高い(嫌がられやすい)
・鋭い刃先によって口腔内や顔周りをケガしやい
・歯石を取ることで歯が抜ける・出血する(=感染リスクが高まる)
・歯周病の状態によっては顔を掴むことで骨折するリスクがある
いくつか補足します。
まず、スケーラーによって歯石を取るとき、超音波スケーラーにせよ、ハンドスケーラーにせよ、歯の表面のエナメル質がわずかに傷つきます。
そこで動物病院では、かならず歯石を取った後にポリッシング(研磨処置)を行います。
この傷の凹凸を放置してしまうとさらに歯垢・歯石が付きやすくなるからです。
自宅の歯石取りでスケーラーを使う際はこういった点も理解しておかなければなりません。
そして、市販の超音波スケーラーは愛犬に嫌がられることが多いです。
スケーラーを見ただけで怯えて逃げるようになったとの話も多く、実際、振動もあれば、大きな機械音も鳴るため、精神的ストレスは高いといえるでしょう。
このように素人感覚で使うとリスクが非常に高いのがスケーラーです。
歯石用の歯磨き粉・歯磨きジェル
歯に塗るだけで歯石除去の効果が期待できる、歯磨き粉や歯磨きジェルです。
特殊な成分によって歯石がもろくなり、ポロっと簡単に取れるようになるもの。
また、歯周病菌を除去してくれるものもあります。
ある犬の事例(リンク先「【症例1】」の項)
で、重度の歯石レベルであったにもかかわらず、歯周病レベルの進行度が低かったケースがあります。
その犬に飼い主さんが毎日なめさせていたものが、歯磨きジェルでした。
手軽な歯石取りの方法ですが、奥歯や歯周ポケットなど細部にまで効果が行き届くのかや歯周病細菌の除去は可能か、アイテム選びに細心の注意が必要です。
▼おすすめの歯石予防アイテム~歯磨き粉・歯磨きジェル①~
『VET'S BEST DENTAL GEL TOOTHPASTE(ベッツ・ベスト デンタルジェル トゥースペースト)』
アロエベラやニームオイル、グレープフルーツオイルなどの天然素材にこだわった、体にやさしい犬用歯磨きジェル「VET'S BEST DENTAL GEL TOOTHPASTE」。
抗菌作用で口腔内の細菌にもアプローチします。
指にはめて使えるシリコンブラシ付きで歯磨きデビューにおすすめ。
⇒『VET'S BEST DENTAL GEL TOOTHPASTE』の詳細を見る
▼おすすめの歯石予防アイテム~歯磨き粉・歯磨きジェル②~
『ひのきの歯磨きジェル』
「樹齢300年」という希少な国産ひのきの蒸留水を贅沢に使った歯磨きジェル。
天然由来成分100%で直接舐めても、水に入れて飲むだけでもOK!
自然が生んだ浄化作用と抗菌成分によって、歯周病菌を99.99%除去します。
⇒『ひのきの歯磨きジェル』の詳細を見る
歯磨きガム
歯磨きガムを愛犬に噛ませることで歯石を取る方法です。
与え方によっては、歯石が付着しやすい奥歯にもアプローチすることができます。
ただし、ガムが当たる場所にしか効果がありません。
飼い主さんが、まんべんなくすべての歯に当たるようサポートをする必要があります。
▼おすすめの歯石予防アイテム~歯磨きガム①~
『PLUTOS(プルート)』
ポルトガルからやってきたチーズ好きのための歯磨きガム「PLUTOS」。
唾液でやわらかくなるので、硬すぎず、ほどよい噛み心地を長く味わえます。
低脂肪・低カロリーで高たんぱく。
歯石を軽減するカゼインも含有しています。
⇒『PLUTOS』の詳細を見る
▼おすすめの歯石予防アイテム~歯磨きガム②~
『Mountain Hard Cheese(マウンテン ハード チーズ)』
良質なたんぱく質、ビタミン、ミネラル等、栄養価の高さも魅力の歯磨きトリーツです。
ハードな噛みごたえは食べかすの残留を防ぎ、歯垢や歯石の付着を予防します。
ストレス発散にもおすすめ。
ヒマラヤの山岳地帯に生息するヤクのミルクは濃厚で独特な風味。
愛犬がやみつきになること間違いナシ!
⇒『Mountain Hard Cheese』の詳細を見る
ジャーキーや骨など硬めのおやつ
歯磨きガム同様、硬めのおやつを食べることで歯石を粉砕し取る方法です。
おやつなので一番、愛犬が喜んで受け入れてくれやすい歯石取りの方法といえるでしょう。
ただ、こちらもまた歯が当たる場所にしか効果がありません。
また、愛犬にとって硬すぎるおやつを与え続けると、歯の摩耗や歯の欠損につながる可能性があります。
歯や顎の骨の状態をよく確認して、時間を決めて与えるのが効果的です。
▼おすすめの歯石予防アイテム~硬めのおやつ~
『北海道根室産(無添加)天然エゾ鹿の角』
北海道の大自然で育ったエゾ鹿の角を贅沢にカットした「天然エゾ鹿の角」。
角は研磨や熱風処理など手間ひまかけて加工し、安全に楽しめるおやつとなっています。
独特の香りがそそる、天然素材の無添加おやつです。
⇒『北海道根室産(無添加)天然エゾ鹿の角』の詳細を見る
「無麻酔の歯石除去」は本当に安全で犬にやさしい治療?
昨今は、無麻酔での歯石除去をする動物病院の獣医師さんやペットサロンのトリマーさん(こちらは先述のとおり違法です)がいるようです。 全身麻酔が心配な高齢犬にとって、麻酔なしでの歯石除去は魅力的な話でしょう。 ただ、無麻酔による歯石除去は「本当に」愛犬にとって安全でやさしい治療なのでしょうか。 無麻酔での歯石取りを掲げているところは「無麻酔であること」と「全身麻酔のリスクの高さ」ばかりがクローズアップされており、肝心の「無麻酔による歯石取りのリスク」にはあまり触れられていないように感じます。 何事もメリットばかりでリスクが一切ないという都合の良い話はありません。 それは、無麻酔による歯石除去も同様です。 ここでは無麻酔による歯石除去のリスクをあらためて考えていきましょう。 ・細部まで歯石は取り除けている? ・動いてしまう子の対応は? ・取った歯石や冷却水への対応は?
細部まで歯石は取り除けている?
歯の裏側、奥歯、歯肉溝、または歯周ポケット。
これらは犬の歯で歯石(歯垢)が付着しやすい箇所です。
無麻酔でこの部分の歯石を取り除くことは、本当に可能なのでしょうか。
とくに歯肉溝や歯周ポケットは、人間の歯科治療でもチクチクとした痛みを伴います。
犬であれば、びっくりしてまず嫌がり、暴れるでしょう。
実際、無麻酔での歯石除去を行うところでは、小さく※印ですべての歯の歯石を除去することは難しい旨が注意書きされています。
このように、まだ記載している動物病院は親切といえるでしょう。
問題なのは、飼い主さんから見える部分や歯の表面だけをきれいにして、さも歯石をすべて取り終えたかのように伝えるところです。
見える部分や表面だけをきれいにしても、歯周病の予防や治療としては意味がありません。
隠れて歯周病が進行し、気づいたときには時すでに遅し。
ひどい口臭に悩み、愛犬には頬の腫れや歯の痛み、食欲低下が出てきて……なんてことになりかねません。
無麻酔での歯石除去を数年間受けていた、ある犬の事例をご紹介します。
非常に痩せており、目の下からの出血があったことで動物病院へ来院。
目の下の出血は、歯周病の進行によって歯の根元から頬にまで到達した炎症が原因でした。
その子はすでに30本もの歯が(犬の永久歯は合計42本)抜け落ちている状態で、さらに残りの12本すべてを抜歯することになったようです。
同時にレントゲン検査によって下顎の骨も、もろくなっていることがわかりました。
もう一度お伝えします。
歯石除去は「歯周病の予防と治療のための処置」のひとつです。
歯石を取って、歯をきれいにクリーニングすることが目的となってはいけません。
無麻酔での歯石除去を希望する飼い主さんのなかには、見える部分がきれいになったことで満足してしまい、歯周病の進行を許してしまう方が多くいます。
無麻酔による歯石除去で、本当にすべての歯石は取り除けているのでしょうか?
「見た目がきれいになった」という落とし穴にご注意ください。
【事例参照】
いぬねこデンタルサービス豊平動物病院「無麻酔歯石除去を続けた結果の末期歯周病」
動いてしまう子の対応は?
超音波スケーラーの振動と機械音、そして顔にかかる冷却水。
歯石除去の一連の工程を考えると高確率で「犬は暴れます」。
そのため、犬の周囲には少なくとも3人以上の知らない大人が取り囲んで、動かないよう力をいれて押さえつける必要があります。
もちろん、日常的な動物の診療でも動かないよう、周囲の人が押さえるシーンは多いです。
ただ、無麻酔での歯石除去ではさらに、振動と未知の音、そして冷たい水が加わります。
人間感覚でもそれがいかに怖いことか、よくわかるのではないでしょうか。
急に取り押さえられ、口をこじ開けられ、謎の機械音のする器具を入れられ……。
おまけに冷たい水を浴びせられたら、恐怖でどうにかなってしまいます。
多くの犬にとって精神的なストレスになるのは間違いありません。
それだけでなく、自宅での歯磨きなどホームケアが難しくなるといったリスクもあります。
無麻酔での歯石除去後、飼い主さんにすら口を触らせてくれなくなったり、攻撃的な性格になったりなどのトラブルも過去にあったようです。
さらに、精神的な問題だけでなく、身体的な問題にも注目しましょう。
下顎の骨折や股関節脱臼、椎間板ヘルニア。
これらはすべて実際に起こった無麻酔治療のトラブル事例です。
獣医師さんが何かやったというよりも、おそらく犬が必死に抵抗した結果でしょう。
過度の興奮で熱中症になった犬の話もあります。
無麻酔での歯石除去は、全身麻酔に抵抗のある高齢犬の飼い主さんに人気です。
ですが、精神的なストレスの影響を受けやすい、デリケートな体を持つ高齢犬たちにとって、本当に安全でやさしい治療といえるのでしょうか。
取った歯石や冷却水への対応は?
全身麻酔での歯石除去では、呼吸を確保した状態で口にガーゼを詰めます。
取った歯石と超音波スケーラーの冷却水が、のどの奥に入らないよう防ぐためです。
これらはのどに入ると「誤嚥性肺炎」や「細菌性肺炎」を引き起こす可能性があります。
実は、愛犬を守るために大切なことなのです。
一方で、ある無麻酔での歯石除去風景を見たところ、取った歯石や冷却水が顔や口の周りにバシャバシャと飛んでいました。
とくに気管支や肺などの呼吸器系が弱い子の安全性が心配といえます。
無麻酔による歯石除去については一度、日本小動物歯科研究会や各動物病院の獣医師による見解をご覧いただくことをおすすめします。
【「無麻酔による歯石除去に対する見解」おすすめ参考サイト】
・あんなか動物病院「歯石取りについての真面目な話」
・みなとおおほり動物病院「無麻酔で歯石を取るのはお勧めしません。絶対に。」
・いぬねこデンタルサービス豊平動物病院「無麻酔歯石除去を続けた結果の末期歯周病」
・萩窪ツイン動物病院「無麻酔歯石除去で逮捕」
・萩窪ツイン動物病院「無麻酔歯石除去とは?①」
・萩窪ツイン動物病院「無麻酔歯石除去の実際②」
・萩窪ツイン動物病院「無麻酔歯石除去のリスク③」
・日本小動物歯科研究会「無麻酔での歯垢・歯石除去による併発症を考える」
・日本小動物歯科研究会「無麻酔で歯石をとる?!」
(補足)どうしても無麻酔で歯石除去をしたい場合はどこでする?
無麻酔での歯石除去は、国内外の世界各国の団体組織が注意喚起の声明や否定的な見解を示しています。
・日本小動物歯科研究会
・米国獣医歯科学会(AVDC)
・欧州獣医歯科協会(EVDS)
・世界小動物獣医師会(WSAVA)など
アメリカやヨーロッパなど海外でも推奨されていないのが、無麻酔治療というわけです。
ただ、どうしても無麻酔での歯石除去をしたい方。
全身麻酔が難しいから、無麻酔でできる限りの歯石除去をしたい方はいると思います。
そこで、無麻酔での歯石除去で選びたい動物病院の特徴をご紹介します。
愛犬を守るために、ぜひ以下のポイントを意識して動物病院を選びましょう。
・獣医師本人が処置をする(併設サロンのトリマーや看護師が対応するところも※違法)
・見学可能・処置に立ち会える
・ポリッシング(研磨処理)までしてもらえる
まとめ
歯石取り(歯石除去)が、いかに重要かがわかる数値ではないでしょうか。 愛犬の歯石は放置せず、定期的に動物病院での歯石除去をご検討ください。 ただし、動物病院で歯石除去をしていても、自宅での歯磨きや歯垢・歯石予防といった日頃からの口腔ケアは大切です。 ぷにわんモールでは、歯石予防グッズだけでなく、国内外の良質なデンタルケアグッズを豊富に取り揃えています。 興味のある方は、以下よりぜひ覗いてみてください。
そして、無麻酔での歯石除去はリスクもあることを覚えておきましょう。
もちろん、無麻酔治療のすべてを否定するつもりはありません。
ただ、飼い主さんは愛犬を守るために、そして将来後悔しないためにも、無麻酔治療におけるリスクをしっかり理解したうえで選択をすべきだと思います。