日本では小型犬の人気が高く、ジャパンケネルクラブの発表する犬種別登録頭数でも上位に来る犬種の多くは小型犬です。その中で最も登録頭数が多いのはトイプードルです(2019年の1年間では72,941頭)。非常に賢いうえに、抜け毛が少なく飼いやすいとされるトイプードルですが、実はひざ関節が弱い犬種でもあります。 今回はそんなトイプードルを含めた小型犬で、気を付けていただきたい病気であるパテラ(膝蓋骨脱臼)について解説いたします。
1. 小型犬が発症しやすい病気「パテラ」とは?
パテラとは膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)の別名で、いわゆる膝のお皿と呼ばれる「膝蓋骨(しつがいこつ)」が、何らかの原因で膝の正面にあるくぼみ(滑車溝)から外れてしまう(=脱臼する)症状のことです。膝蓋骨が外側に外れることを「外側脱臼」、内側に外れることを「内側脱臼」、どちらも外れることを「両側脱臼」と呼びます。小型犬では、特に内側脱臼が多く見られます。
飼い主さんが気づく時の症状としてよくあるのは、
- 片足を上げ続ける
- しゃがんだ時に「キャン」と鳴く
2. トイプードルなど小型犬にパテラが多い理由は?
パテラはどの犬種でも発症し得ますが、特に、ヨークシャーテリア、チワワ、トイプードル、ポメラニアン、マルチーズなどの小型犬に多く見られます。 理由としては、生まれつき膝蓋骨のはまる滑車溝が浅い個体が多い事が挙げられます。
3. 小型犬で発症しやすいパテラの症状
パテラは、膝蓋骨の外れやすさから4つのグレードに分類されます。
グレード1
ほぼ無症状で、たまに足を拳上する動作(三本足でケンケンするような動き)が見られる。
グレード2
脚を曲げたときに脱臼してしまう状態。脚を伸ばすと戻るので、脱臼を直すために脚を伸ばすようなしぐさが見られることが多い。
グレード3
すぐに脱臼してしまう、もしくは脱臼している時間が多い状態で、足を引きずるような行動が現れ始める。
グレード4
常に脱臼した状態で、骨の変形、膝を曲げた状態で歩く、全く歩けないなどの歩行困難が見られることもある
4. 小型犬で発症しやすいパテラの治療法
パテラの治療は、内科的治療と外科的治療があります。
1)内科的治療
比較的軽症な場合や、高齢で手術に耐えられない可能性がある場合には内科的治療を行います。
内科的治療では、消炎鎮痛剤などの内服や消炎効果が期待できるレーザー治療などを行います。
また、症状の悪化を防ぐため体重管理や運動制限などの指導を伏せて行うことがあります。
内科的治療は、関節炎の症状を一時的に抑える対処療法であり、膝蓋骨の脱臼が根本的に治るわけではありません。
また、長期にわたるステロイド剤の投与は肝臓などの臓器に負担をかける可能性もあります。
治療を受ける犬の症状の程度、年齢や体重、生活環境など様々なことを考慮して治療の選択がされますので、治療を開始する際はよく獣医師と相談して決めましょう。
2)外科的治療
激しい痛みや歩行困難が見られる場合には、外科的治療(手術)を行う場合があります。
一般的に、グレード3以上なら手術を勧める病院は多いように思えます。
特に幼犬においては、その後のQOL(Quality Of Life:生活の質)に大きく関わる問題ですので手術で根本から治療する方を基本的におすすめします。
手術内容は骨組織の再建術や軟骨組織の再建術など、いくつかの術式を症状に合わせて行います。
手術には全身麻酔を必要とするため、高齢の場合や体質によっては死亡するリスクが高くなり、施術できない場合があります。
手術の費用としては、大体25~40万円ほどが一般的です。
この他に1週間ほどの入院費用などが必要になってきます。
また、パテラは先天的な原因が多いため、片足でパテラが生じた場合は、もう片足も発症する可能性が高いです。
その子の状態によりますが、獣医師によっては一回で両側の手術を勧める場合もあるようです。
手術後は、片足、もしくは両足が一時的に使えなくなってしまいます。
ギプスを付けた状態で生活する事になりますが、予後が良ければ2週間ほどでギプスを外して歩行する事が可能になります。
ストレスに弱い個体ですと、長期の入院・リハビリに耐えられない場合もありますので、獣医師と相談したうえで決定しましょう。
5. 小型犬で発症しやすいパテラの予防法
パテラは生まれつき膝の滑車溝が浅いことがその原因として多く見られますが、ある程度予防をする事は出来るとされております。
パテラの予防に有効な方法は、以下の通りです。
- 適切な体重を保つ
- フローリングは滑り止めをする
- ジャンプは最低限にする
太りすぎは、膝に負担がかかるので良くありません。 また、滑りやすいフローリングは膝に負担がかかるため、滑り止めにマットを敷くなどして対策をしましょう。 ほかにも、ピョンピョン後ろ足でジャンプをしたり、ソファなどの上り下りしたりする事でも膝に負担がかかります。 硬い地面でのジャンプ運動や、高い場所への上り下りなどはあまりさせないように工夫をしましょう。
小型犬で発症しやすいパテラに注意しよう
小型犬で多く見られるパテラ(膝蓋骨脱臼)の原因や治療法、予防法などについてご説明いたしました。パテラは初期ではあまり大きな症状が見られず気が付きにくい病気ですが、進行すると歩けなくなってしまうこともあります。飼い主さん自身ではなかなか判断が難しい場合がありますので、普段と違う歩き方などが見られたら、動物病院に行った際に獣医師に相談してみましょう。