子犬が急に下痢をしてしまうと、 「何か大きな病気では?」 「病院に連れて行くべき?」 と不安になりますよね。 本記事では、子犬の下痢の主な原因や、動物病院を受診すべき症状の目安、おうちでできる応急ケアについて、獣医師監修のもとやさしく解説します。 下痢のときに飼い主さんが注意したいポイントを知っておくことで、いざというときも落ち着いて対処できるようにしておきましょう。
この記事の監修
子犬が下痢をする原因とは?
子犬の体は未熟で、ちょっとしたことでもお腹をこわしがちです。 まずは子犬が下痢をする主な原因について考えられるケースを知り、適切な対処につなげましょう。
環境の変化によるストレス
子犬は環境の変化にとても敏感です。
新しい環境に慣れるまでの間や引っ越し直後など、生活環境が大きく変化すると、ストレスによって免疫機能が低下し、腸内細菌のバランスが崩れることがあります。
この腸内細菌の乱れは「ディスバイオーシス」と呼ばれ、大腸に炎症を引き起こし、下痢や軟便といった症状として現れることが知られています。
ディスバイオーシスは、主に栄養不足や身体的・心理的ストレスが原因で発生し、炎症性腸疾患(IBD)や大腸がん(CRC)の発症リスクを高める可能性があります(※)。
ストレスによる大腸の炎症(急性大腸炎)は子犬では珍しくありません。心当たりがあれば、できるだけ子犬が安心できる環境を整えてあげましょう。
食事の変化・フードが合っていない
子犬のデリケートな胃腸は、新しい食べ物に慣れるまで時間を要します。
フードの急な切り替えは、未熟な消化器官に負担をかけ、下痢、嘔吐、食欲不振などの胃腸障害を引き起こす可能性があります。
同様に、普段の食事にない高脂肪のおやつも消化が難しく、膵炎や浸透圧性下痢(水様便)の原因となることがあります。
そのため、子犬用フードから成犬用フードへの移行は、一週間以上かけて少しずつ行いましょう。
フードの切り替え方法については、関連記事『子犬から成犬へのドッグフードの切り替え』でも詳しく紹介しています。
ウイルス・寄生虫などの感染症
ウイルスや寄生虫による感染症にも注意が必要です。
パルボウイルスやコロナウイルス、ジステンパーなどの感染症が原因で下痢を起こし、免疫力の弱い子犬では命に関わるほど重症化することもあります。
また、回虫やジアルジアなど寄生虫の感染でも下痢が起こり、これらは他の犬にうつる(排泄物に触れることで伝染する)恐れもあります。
12時間以上続く血便や、下痢の他に嘔吐や食欲不振がある場合は早急に動物病院で診断・治療を受けましょう。
誤飲や拾い食い
子犬は好奇心旺盛で、何でも口に入れてしまいがちです。
落ちているものを拾い食いしたり、おもちゃの破片などを誤って飲み込んだりしてしまうと、消化できない異物や有害な物質が腸を刺激して下痢の原因になります。
ときには下痢だけではなく腸閉塞などの命に関わる事態を引き起こすこともあるため、誤飲・誤食には普段から注意が必要です。
ワクチン接種後や薬の副作用
ワクチン接種後や新しい薬を飲み始めた後に、一時的に軟便や下痢が見られる子犬もいます。
これは珍しいことではなく、多くの場合心配のない一過性の下痢です。
こうした副反応による下痢は通常半日〜1日で治まりますが、激しい症状が出たり長引いたりする場合は獣医師に相談してください。
下痢の状態をチェックしよう
子犬が下痢をしたときは、その「下痢の状態」をよく観察することが今後の判断に役立ちます。 便の色や形状、匂い、混じっているもの、そして子犬の元気・食欲の有無など、チェックすべきポイントを押さえておきましょう。
水のような下痢?粘液や血が混じっている?
まず便の色や硬さ、混じり物に注目しましょう。
黒っぽいタール状(粘り気のある)の下痢は胃や十二指腸などの消化管の上部で出血している可能性があり、下痢に加えて、食欲不振、元気消失、嘔吐などの症状がある場合は、緊急性が高いです。
ゼリー状の粘液や鮮血が混じる場合は大腸の炎症(急性大腸炎)が疑われます。
さらに、水のように液体状の下痢は短時間で脱水症状を招きやすいため特に注意が必要です。
下痢の様子は写真に撮って記録しておくと、受診時に獣医師に見せることができ役立ちます。
元気・食欲はある?いつから?
下痢をしているとき、子犬自身の元気や食欲が普段通りあるかどうかもしっかりチェックしましょう。
食欲も遊ぶ元気もあるようなら、ひとまず深刻な状態ではない可能性が高いです。
しかしぐったりしていたり、ご飯を欲しがらなかったりする場合は要注意です。獣医師に相談しましょう。
食欲不振と下痢がいつから始まり、何回続いているかを記録しておくと良いでしょう。
これらの症状の経過は、診察時に役立つ重要な情報となります。
すぐに動物病院を受診すべき症状
下痢も軽症で済む場合から、命に関わる病気のサインである場合まで様々です。 ここでは「様子見は危険」な下痢の症状を具体的に確認しておきましょう。 なお、市販の下痢止め薬や整腸剤を自己判断で使うのは避け、必ず獣医師の指示を仰いでください。 特に人間用の薬を安易に与えることは大変危険です。 少しでも不安な症状があれば、早めに動物病院で相談しましょう。
ぐったりしている・食欲がない
下痢をしている子犬がぐったりしていたり、食欲がまったく無かったりする場合は、緊急性が高いと考えられます。
元気がない、食欲不振といった状態が続くことは、脱水症状や全身の不調のサインであり、体の小さい子犬は症状の進行が早いため、命に関わることもあります。
迷わずすぐに病院で診察を受けさせてください。
何度も下痢を繰り返している・血便が出た
短時間に下痢を何度も繰り返して止まらない場合は、脱水症状に陥る危険があります。
また、便に血が混じる(血便が出る)場合も、早急な対応が必要です。
血液や粘液が混じる下痢は病気の兆候であることが多く、特に下痢に鮮血が大量に見られるときは緊急です。
このような症状が見られたら、できるだけ早く動物病院を受診してください。
嘔吐・熱・震えなど他の症状もある
下痢に加え、嘔吐、発熱、震え(けいれん)といった症状が併発している場合、ジステンパーやパルボウイルス感染症のような重篤な病気が疑われます。
これらの病気では、下痢だけでなく嘔吐、高熱、神経症状(震えやけいれんなど)が見られます。
このように複数の症状が同時に現れているのは、子犬の体に大きな負担がかかっている兆候です。
直ちに動物病院を受診してください。
元気がある場合の家庭での対処法
子犬が下痢をしている場合でも、元気や食欲があれば、すぐに動物病院を受診するのではなく、自宅で様子を見るという選択肢もあります。 ただし、子犬の体に負担をかけないよう、安全に胃腸を休ませるための工夫が必要です。 ここでは、子犬の下痢に対する家庭での応急処置についてご紹介します。
半日〜1日絶食して胃腸を休める
子犬が下痢をしている場合、無理に食事を与えるのは避け、半日〜1日程度の絶食が推奨されます。
これにより胃腸を休ませ、消化管の働きを一時的に止めて炎症を鎮める効果が期待できます。
ただし、脱水症状を防ぐために水分補給はしっかりと行ってください。
なお、生後3か月未満の子犬や持病のある犬の場合は、自己判断での絶食は危険を伴う可能性があるため、必ず事前に獣医師に相談してください。
白米や茹でたささみなどの消化にやさしいごはん
絶食後や下痢が軽度な場合は、少量から温かく消化しやすい食事を与えてみましょう。
定番として、白米を柔らかく煮たおかゆや茹でた鶏ささみが挙げられます。
これらは脂肪分が少なく、胃腸に負担をかけにくい食材です。
味付けはせず、人肌程度の温度に冷ましてから与えるようにしてください。
市販の犬用離乳食や、調理済みの茹でササミ(犬用『無添加レトルト ささみ 50g×5P』など)を利用しても良いでしょう。
下痢が悪化しないかを確認するため、少量ずつ様子を見ながら与えてください。
市販のウェットフードには添加物が含まれる場合があるため、トッピングとして与えるのは体重1kgあたり1日5~10g程度に留めましょう。
2~3日以内の短期的な補助食として使用し、早めに総合栄養食に戻すことをお勧めします。
水分補給を忘れずに
下痢の際には脱水症状を防ぐため、水分補給が最も重要です。
新鮮な水をいつでも飲めるようにしておき、飲まない場合はスプーンやシリンジで少しずつ口に入れてあげましょう。
可能であれば、犬用の経口補水液(電解質ドリンク)を利用すると効果的です。
ただし、人間用のスポーツ飲料や幼児用電解質飲料は成分が犬に適さないため与えてはいけません。
もし子犬が水分すら受け付けず下痢が続く場合は、迷わず動物病院を受診してください。
下痢を防ぐためにできること
子犬の下痢は、日々のちょっとした工夫で予防できる場合もあります。
下痢の原因となりやすい要素を減らしてあげることが大切です。
ここでは、普段の生活で意識したい予防のポイントを確認しておきましょう。
フードは急に変えない
急な食事内容の変更は、腸内細菌の種類と脂質代謝に影響し、下痢の原因となることが分かっています(※)。
フードを新しい種類に切り替えるときは、現在のご飯に新しいフードを少しずつ混ぜ、7〜10日ほどかけて段階的に移行しましょう(参考記事:子犬から成犬へのドッグフードの切り替え)。
子犬のお腹をびっくりさせないことが予防のポイントです。
拾い食いや異物に注意
子犬が室内や屋外で口にしてはいけないものを誤食しないよう、十分に注意を払う必要があります。
人間の食べ物、小さなおもちゃ、落ちているゴミなどは子犬にとって危険なため、注意が必要です。
特に散歩中は、子犬が地面の匂いを嗅ぎたがることが多いため、リードを短めに持ち、落ちているものを食べないように常に目を離さないようにしましょう。
万が一、異物を誤飲してしまうと、腸閉塞などの深刻な事態に陥る可能性もあります。
日頃から子犬の周囲に危険なものが落ちていないかを確認し、予防に努めることが大切です。
定期的な健康チェックとワクチン接種
子犬の健康を守るためには、定期的な動物病院での健康チェック(便検査を含む)と適切なワクチン接種が不可欠です。
これにより、寄生虫やウイルス感染症による下痢を予防し、早期発見に繋げることができます。
特に致死率の高い犬パルボウイルス感染症などもワクチンで予防可能です。
子犬に合った健康管理について、獣医師と密に相談し、適切なケアを継続していきましょう。
まとめ
子犬は体が小さいため、下痢が悪化しやすい傾向にあります。 「きっと大丈夫」と安易に考えず、手遅れになる前に対応することが重要です。 軽い下痢であっても油断せず、便の状態、子犬の元気、食欲を注意深く観察してください。 もし少しでも不安を感じたら、自己判断は避け、速やかに動物病院に相談しましょう。 適切な対応と予防策を講じることで、子犬との健康な日々を守ることができます。