犬がいつも食べているごはんを急に拒否すると、多くの飼い主さんは 「体調が悪いのではないか」 「すぐに病院へ連れて行くべきか」 と不安になります。 犬の食欲不振には実にさまざまな原因があり、放っておいても問題のないケースと、早めに診察が必要なケースがあります。 本記事では、犬がごはんを食べなくなる主な理由を大きく4つに分けて解説します。 特に「病気」による食欲不振は見逃すと危険ですので、具体的な症状のチェックポイントを押さえておきましょう。 また、ストレスや加齢、わがままが原因の場合の対処法も紹介しています。 まずは愛犬の状態をしっかり観察し、必要に応じて動物病院へ相談することが大切です。
この記事の監修
①体調が悪い・病気
犬の食欲不振で真っ先に疑いたいのが「病気」です。 軽度と思っていても放置すると悪化し、取り返しのつかない状態になることもあります。 ここでは、病気を以下の三つに分類して紹介します。
内臓やホルモン異常による食欲不振
●胃腸炎・膵炎
胃腸の炎症(ウイルスや細菌感染、誤飲・食べ過ぎなど)や膵臓の炎症(膵炎)では、嘔吐や下痢、倦怠感などとともに食欲が落ちる場合が多いです。
●肝臓・腎臓疾患
肝炎や腎不全などの内臓疾患になると、吐き気、疲労感、脱水などが進み、食欲不振を引き起こします。
●胆嚢運動障害・胆嚢機能低下
胆嚢機能が衰えて胆汁がうまく排出されないと、慢性的な食欲低下に繋がるケースがあります。
2015~2017年に行われた14頭の犬を対象とした研究では、食欲不振を示す犬の9頭において胆嚢排出機能低下が確認されました。
胆嚢に沈殿物(胆泥)などがない若い犬でも機能低下が起きることがあるため、見逃せない要因といえます。
出典:Viljoen, A. D., Tamborini, A., & Bexfield, N. H. (2021). Gall bladder ejection fractions in dogs investigated for chronic altered appetite: 14 cases (2015–2017). Journal of Small Animal Practice, 62(12), 1101-1107.
●糖尿病
糖尿病の初期では多飲多尿や体重減少とともに食欲増進が見られますが、糖尿病が進行し、後期から末期になると「糖尿病性ケトアシドーシス」と呼ばれる重篤な状態に陥ることがあります。
糖が細胞に取り込まれず脂肪を分解すると「ケトン」が増え、体内が酸性化(ケトアシドーシス)して食欲不振などの症状が起こります。
●副腎皮質機能低下症(アジソン病)
ホルモン異常が原因で嘔吐や下痢、脱力感などを伴い、慢性的にフードを食べたがらない状態が続く場合があります。
●歯・口腔内トラブル
歯周病や虫歯、口内炎などの痛みがあると、咀嚼時に苦痛を感じてドッグフードを拒否しがちです。
●がん(腫瘍)
消化器系を中心に腫瘍ができると、急激な体重減少や倦怠感を伴い、食欲が落ちるケースも少なくありません。
感染症:犬のバベシア症
犬のバベシア症は、マダニを媒介として感染する病気です。
以前は西日本を中心に発生が多く見られましたが、近年では東日本でも報告例が増えています。
バベシア症の症状には、以下のようなものがあります。
- 疲れやすく元気がない
- 食欲がなくなる
- 体重減少
- 発熱
- 尿が濃い色になる
- 歯茎や舌が白っぽい、あるいは黄色がかる
犬の赤血球に寄生するバベシア(寄生虫)が、赤血球を破壊して貧血を引き起こすのが特徴です。
重症化するとDIC(播種性血管内凝固症候群)という合併症も発生し、非常に危険な状態に陥ることがあります。
予防のためにはマダニ対策が重要です。
すでに上記の症状がみられる場合や、食欲低下が続いている場合は速やかに動物病院で診察を受け、適切な治療を行いましょう。
出典:山﨑真大. (2015). 犬バベシア症. 日本獣医師会雑誌, 68(4), 245-252.
熱中症
暑い季節に外で遊んだり、エアコンが効いていない室内や車内に長時間いたりすると、犬は体温調節がうまくいかず熱中症を起こす可能性があります。
熱中症によって食欲が落ちる場合もあるため、夏場の食欲不振には特に注意が必要です。
熱中症の初期症状
- ハアハアと荒い呼吸(パンティング)をしている
- 目や口の中が充血している
- ぐったりして立てない、ふらつきがある
- 食欲がなくなる、水を飲まない
- よだれが多い、心拍数が上がっている
さらに重症化すると、体温が40℃を超える、意識混濁、嘔吐や下痢、発作や震え(震戦)などが見られる場合もあります。
夏場にこのような症状があるときは、すぐに涼しい場所へ移動し、濡れタオルなどで身体を冷やす応急処置を行いながら、可能な限り早く動物病院で診察を受けてください。
病気を疑うサインと受診の目安
愛犬の体調不良を見極めるうえで、とくに注意したいのが「脱水症状」と、その他の深刻なサインです。
以下のような状態が複数当てはまる場合は、一刻を争う可能性があるため、自己判断は禁物。
すぐに動物病院へ連れて行き、適切な診察や処置を受けさせましょう。
脱水症状が疑われるサイン
- 口の中が乾いている、ベタベタしている
- 皮膚をつまんだときに元に戻るのが遅い
- おしっこが極端に少ない、色が濃い
- ぐったりして元気がない、動きが鈍い
- 呼吸が速い、心拍数が高い
- 嘔吐や下痢が頻繁に起こると体内から水分を一気に失うため、脱水がさらに進行します。
- 24時間以上まったくごはんを口にしない。
- 歯茎や舌の色がいつもと違う(白っぽい、黄色い、紫がかる)。
- 咳や発熱、ふらつきなどが見られる。
このような症状がみられた場合は、早急に獣医師の診察を受けてください。
とくに嘔吐や下痢、脱水は時間が経つほど状況が悪化し、命にかかわる危険性が高まります。
飼い主さんの冷静かつ迅速な行動が、愛犬の健康と安全を守るうえで何よりも大切です。
②ストレス
【ストレスでもごはんを食べなくなる】 犬は非常にデリケートな生き物です。 引っ越しや家族構成の変化、大きな物音や長時間の留守番など、さまざまな要因でストレスを受けると、食欲が落ちることが珍しくありません。 飼い主さんの心配や焦りを敏感に察するケースもあるため、環境やコミュニケーションの見直しが大切です。
ストレスを疑うサイン
ストレスを抱えた犬は、落ち着かずにそわそわと動き回るなどの行動を示すことがありますが、強いストレスに長期間さらされている場合は、逆に無気力になってしまう場合もあります。
さらに、ストレスによって尿や便の回数・状態が乱れることもあり、過度に体をなめ続けることで舐性(しせい)皮膚炎を引き起こすリスクも高まります。
また、吠え方や鳴き声が普段とまったく異なる様子を見せるときも、ストレスのサインとして注意が必要です。
ストレスを和らげる対処法
- 安心できるスペースを用意
- 適度な運動・遊び
- 生活リズムを安定させる
- コミュニケーションを増やす
ケージやクレートなど、犬が自分から入って落ち着ける場所を確保。
散歩や飼い主さんとのふれあいでエネルギーを発散させる。
食事や散歩の時間をある程度固定し、ルーティンを作る。
アイコンタクトや声かけによる安心感を高める関わり方が大切です。
ストレス原因を取り除いたり改善したりしても食欲が戻らない場合は、何か別の病気が隠れている可能性もあります。
早めに獣医師のアドバイスを受けましょう。
③老化・加齢
【シニア期の犬は自然と食欲が落ちることも】 7歳以上をシニア期と呼ぶことが多く、加齢とともに体内の代謝や活動量が低下していきます。 歯や口腔内の状態が悪化することも多いため、固いフードを食べづらくなったり、食そのものへの興味が弱くなったりする犬もいます。
要注意の症状
シニア期に入って食欲が低下している犬については、まず急激に体重が落ちていないかを確認することが重要です。
体重が短期間で大きく減少している場合、単なる加齢以外の健康上の問題が隠れている可能性があります。
加えて、極端に水を飲まない状態が続くと、脱水によるさらなる体調悪化を招きかねません。
軟らかいフードなら口にするのに、ドライフードだけは嫌がるといった行動を示すときは、歯や口の中に痛みや炎症があることも考えられます。
特に、口臭の悪化や歯茎の腫れなどが見られる場合は、口腔内のトラブルが進行している恐れがありますので、早めに動物病院で診察を受けるようにしましょう。
老犬の食欲不振への対策
- 食事の形状を見直す
- 小分けして与える
- シニア用フードへの切り替え
- 定期的な健康診断
ふやかしたフードやウエットタイプなど、歯や顎への負担を減らす。
一度に多くを食べられないなら、少量ずつ複数回に分けて与える。
栄養バランスや消化の負担を考慮したライフステージに合った製品を選ぶ。
加齢による病気の早期発見・予防につなげる。
④わがまま
【好き嫌いやトッピング依存】 健康チェックをしても異常がなく、ストレスや老化とも考えづらい場合は、単なるわがままや好き嫌いが原因かもしれません。 おやつやトッピングなら食べるのに、ドッグフードだけは拒否するケースはよく見られます。 飼い主さんが心配して甘やかすほど、犬が“もっとおいしいものを待てばいい”と学習してしまうことも。
よくある状況
わがままが原因で犬がフードを食べなくなるときには、まず新しいフードに切り替えた途端、匂いを気にしてまったく口にしなくなることがよく見受けられます。
これに加えて、おやつや人間の食べ物ばかり欲しがり、肝心のドッグフードを放置してしまう場合も珍しくありません。
そうした状態が続くと飼い主さんが「食べないのは可哀想」と考え、ほかのごはんを与えてしまいがちですが、その行動が結果的に犬のわがままを助長し、さらに食べムラが強くなる可能性があります。
対処法
- フード切り替えはゆっくり行う
- 時間を決める・残したら片づける
- おやつやトッピングの与えすぎに注意
- 獣医師やトレーナーに相談
旧フードに少量ずつ新フードを混ぜ、数日〜数週間かけて移行する。
だらだら置いておくのではなく、メリハリをつける。
食べないからといって高カロリーのおやつを与えすぎると栄養バランスが崩れます。
行動修正が必要な場合は、専門家のアドバイスで改善しやすくなります。
まとめ
犬がごはんを食べない理由には、多くの可能性が考えられます。 特に以下の4つが代表的な原因といえるでしょう。
- 体調不良・病気
- ストレス
- 老化・加齢
- わがまま(好き嫌い)
・胃腸炎・膵炎、肝臓・腎臓疾患、胆嚢機能低下、糖尿病、副腎皮質機能低下症、歯のトラブル、癌など
・感染症:バベシア症(マダニ媒介)や、夏場には熱中症にも注意
・嘔吐や下痢、ぐったりして元気がない、歯茎の色の変化などがあれば即受診
・環境変化、大きな音、長時間の留守番など
・シニア期に入り代謝や歯の状態が変化する
・新しいフードへの不慣れ
・おやつやトッピングばかりを好み、ドッグフードを拒否
一時的な食欲低下のようにみえても、長期間続いたり、明らかな体調不良(嘔吐・下痢・発熱・ふらつきなど)を伴ったりする場合は、自己判断せず早めに動物病院を受診しましょう。
とくに熱中症や膵炎・胃腸炎・進行した糖尿病などの緊急性が高い病気は、放置すると命に関わるリスクがあります。
飼い主さんが日頃から犬の小さな変化にも気を配り、適切なケアや早期受診を行うことで、愛犬の健康と安全を守ることができるはずです。
もし「食べない原因が分からない」「対策しても改善しない」と感じるときは、遠慮なく獣医師や専門家へ相談してください。
正しく対処すれば、きっとまた愛犬が元気に食事を楽しめるようになるでしょう。